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ネガティブ感情の対処法 感情に名前をつける

感情は厄介で、ネガティブな感情(不安・悲しみ・恐怖・怒りなどなど)に圧倒されてどうにもならない。解放されたい!!と強く思われている方も多いと思います。感情のマネジメントに共通して言えることは、その感情をなくそう(感じないようにしよう)としないことです。

感情をなくすことはできませんが、感情を調節することは可能です。今日はその感情調節の方法として、とても簡単な方法を1つご紹介します。それは、感情に名前をつけることです。


感情に名前をつける(言葉にする)ことは、ネガティブな感情を経験したときに、その感情を軽減することができます。


といわれても、

私たちは、自分がとても辛く、苦しいときにその感情に名前をつけるつまりしっかり自覚することはさらに自分を苦しめることのように感じてしまいます。しかし、研究では全く逆のこと、感情に名前をつける(言葉にする)ことで、ネガティブな感情を軽減できることがわかっています。さらに、面白いことに、私たちは実験でネガティブな感情の減少を体験してもなお、ネガティブな感情を言葉にすることは、自分を苦しめることにつながるという考えを変えないとも言われています。


 これは私の私見ですが、とことん、人はネガティブな感情を避けたいようですね。こういう研究は外国人が対象だから……と思う方もおられると思うので、ひとつ日本人を対象とした研究を紹介します。


日本人の成人を対処にした研究では(Yoshimura, S.,et al.,2023)、被験者にネガティブな画像とニュートラルな画像を混ぜて見てもらい、感情にラベルを貼ってから視点を変えて感情的な反応を抑えるようにするか、感情にラベルを貼らずに視点を変えるようにするか、あるいは受動的に画像を観察するように指示しました。 脳イメージングの結果、3つのグループの中で、感情にラベルを貼って視点を変て感情的な反応を抑えようとしたグループは、脳のストレス中枢の活動が低下し、脳の感情調節中枢の活動が強くなりました。


 ただし、別の研究では(Levy-Gigi, E.,et al.,2022)、強い感情(感情の強度が高い場合)には効果があっても、弱い感情についてはあまり効果が見られないこともわかっています。避けようのない強い感情の場合には、感情を言葉にすることで、感じているネガティブな感情を軽減させることができるようです。そして、感情を言葉にするタイミングについては、どのタイミングでも効果があることがわかっています。


 面白いことに、ポジティブな感情の場合には、感情を言葉にすることで減少することが明らかになりました(Lieberman, M. D., et al.,2011)。つまり、感情を言葉にすることは、感情反応全般を弱める可能性があるようなのです。


 研究のお話をしてきましたが、私たちは実は無意識に感情を言葉にしています。何か嫌なことがあったら、友だちや同僚に愚痴という形で表現していますよね。これをあえて、自分の今の気持ちは何だろう?と自分の心を観察し、感情をあえて言葉にしてみよう。そうすると、少し楽になりますよ〜ということなんです。


 ただもう一つ課題があります。私たちは案外自分の感情を正確に言葉にすることができません。基本感情は、怒り・喜び・悲しみ・不安・驚き・嫌悪・恐怖の7つ(エクマン)と言われています。そのほか基本感情の組み合わせで二次感情や三次感情があるとプルチックはいいます。たくさんの感情を表す言葉があるので、いろいろ言葉を集めてみるのもいいかもしれません。


感情を言葉にする能力は、学業能力(Izard., et al,2001)、社会的能力(Mostow.,et al,2002)、仲間から好かれること(Fabes., et al.,2001)、より向社会的な行動をとること(Denham.,1986;Izard., et al., 2001)と関連することもわかっています。自分の感情を言葉にできることは、自分自身の人生を豊かにすることとも繋がっているようです。


 ここまで、感情を言葉にすることの良い面をお話してきましたが、感情を言葉にすることが無条件に良いわけでもありません。苦痛を感じている問題や出来事を繰り返し思い返すつまり反芻する状態になってしまうとむしろ増幅させてしまいます。


 さまざまな研究を総合すると、現時点では、自分がどんなネガティブな感情を感じているか言葉にして、そののち、ネガティブな感情や状況を別の観点からポジティブに捉え直す認知的再評価を行うことが、気ぞらしをしたり、感情に気づかないままにするよりは、感情調節に役立つということなのです。

 いきなり認知的再評価までは難しいと思いますので、まずは感情的な反応の強度を下げる感情に名前をつけることを習慣化してみましょう。


習慣化してみよう!

  1. 自分は今どんな感情をどのように感じているのか?自分自身を観察し、感じてみましょう。

  2. その感じ”フィーリング”に最も適する言葉をいくつか思いうかべましょう。

    例えば、上司にパワハラされた!、先輩に嫌みをいわれた!、夫が話しをきいてくれない!は感情ではありません。その体験をしてどんな気持ちになったか?です。たとえば、「悲しい」「悔しい」「怖い」「恥ずかしい」「屈辱」「傷ついた」などなどです。

  3. 最後に文章にしてみましょう。「私は−−−と感じた」


参考文献

Denham, S. A. (1986). Social cognition, prosocial behavior, and emotion in preschoolers: Contextual validation. Child Development, 57, 194–201.

Fabes, R. A., Eisenberg, N., Hanish, L. D., & Spinrad, T. L. (2001). Preschoolers' spontaneous emotion vocabulary: Relations to likability. Early Education & Development, 12, 11–27.

Izard, C., Fine, S., Schultz, D., Mostow, A., Ackerman, B., & Youngstrom, E. (2001). Emotion knowledge as a predictor of social behavior and academic competence in children at risk. Psychological Science, 12, 18–23.

Levy-Gigi, E., & Shamay-Tsoory, S. (2022). Affect labeling: The role of timing and intensity. PLoS ONE, 17(12), 14.

Lieberman, M. D., Inagaki, T. K., Tabibnia, G., & Crockett, M. J. (2011). Subjective responses to emotional stimuli during labeling, reappraisal, and distraction. Emotion, 11(3), 468–480.

Mostow, A. J., Izard, C. E., Fine, S., & Trentacosta, C. J. (2002). Modeling emotional, cognitive, and behavioral predictors of peer acceptance. Child Development, 73, 1775–1787.

Yoshimura, S., Nakamura, S., & Morimoto, T. (2023). Changes in neural activity during the combining affect labeling and reappraisal. Neuroscience Research, 190, 51–59.


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