孤独というと皆さんはどんなイメージをもつでしょうか?
ためしに「自分が一人だと感じるのは,……………………。」
という文章を書き出せるだけ、書き出してみましょう。あなたが感じる孤独はどんな孤独だったでしょうか?
今から少し教科書的な話をしましょう。実は、「孤独」を深く理解することで、人間関係が改善され、自己理解が深まり、より快適に生活できるようになります。そこで、このコラムでは、孤独の本質を理解し、孤独にどう向き合えば良いかの方法を段階的に学んでいきます。この連載を通じて、日々の生活が少しずつでも楽になるようなアドバイスをお届けします。
ここまで「孤独」という言葉を使ってきましたが、正確には「孤独」と「孤独感」は異なる概念です。「孤独」とは、単にひとりでいる状態を指すわけではありません。実際には、実存哲学の分野で使われることが多く、人間が本質的に孤独な存在であることを示すために用いられます。一方、「孤独感」とは、私たちが日常で感じる主観的な感情のことを指します。
たとえば、マインドフルネスや瞑想、自己内省の時間やデジタルデトックスの時間という意味での孤独は、楽しく豊かで心の充足感を助ける面をもっています。しかし、同じ孤独でも、社会的なつながりが希薄だったり、今あるつながりに不満を感じていると孤独感を感じるようになります。
そういった意味で孤独感とは、個人の好む社会的関係と実際の社会的関係との間の不一致に対応し(Peplau & Perlman, 1982)、この不一致は、孤独感という否定的な経験や、家族や友人の中にいても社会的に孤立していると感じる苦痛や不快感をもたらす(Weiss, 1973)と定義されてきました。
簡単にいうと、今ある人間関係と望む人間関係との間にあるギャップと言えます。そのため、あらゆる人が楽しい人間関係が少なかったり、人間関係に不満があったり、友人ともっと一緒にいたいと思ったりすると孤独感を感じると言えるでしょう。また、一人ぼっちや孤独を感じることが必ずしも一人ぼっちであることを意味するわけでもなく、一人ぼっちであることが必ずしも孤独を感じることを意味するわけでもないことがわかります。
ですから、あらゆる年代、そして社会的な成功者でも社会的に疎外され差別された人でも、だれでも孤独感を感じます。
ただし、より広く孤独の定義というものを調べていくと、社会的孤立と孤独感は低〜中程度の関連しかみられないことも分かっています。もう少し幅広い視点で孤独感というものを考える必要がありそうです。たとえば、孤独は、実存的なレベルでは空虚感や疎外感として経験され、羞恥心や罪悪感といった感情的な性質も伴うこと。また、存在論的なレベルでは、見捨てられたという感覚として現れることもあります。そして、孤独の深い次元は、耐え難いほどの苦しみを伴うともいわれています(Nilsson et al.,2006)。
Hawkley et al.(2005)やHawkley, Gu, Luo, & Cacioppo(2012)は、孤独を3つの側面で説明しています。
1)親密な孤独 重要な誰か(例えば配偶者)、つまり危機の際に精神的な支えとして頼ることができ、相互に助け合い、自分の人間としての価値を肯定してくれる人の不在を感じている孤独感
2)関係的な孤独 質の高い友人関係や家族とのつながりのなさで、特に重要なのは友人の量ではなく、重要な友人・親友の質が孤独感につながる
3)集団的な孤独 個人が集団空間において離れた場所にいる同様の他者とつながることができる、その人が大切にしている社会的アイデンティティや「能動的ネットワーク」(グループ、学校、チーム、国のアイデンティティなど)を指す。簡単にいうと、所属する団体への帰属意識のなさや所属する集団のなさから感じる孤独感
日本の孤独研究の第一人者である落合の研究は、丁寧に日本人の孤独感について研究を重ねています(落合,1974,1982,1985,1996)。古い研究で、現代とは変わっているんじゃないかと思う方もいると思いますが、私は個人的に臨床現場での実感に一番近い孤独感の説明をしていると思っていますので、ご紹介しますね。
落合は(1974,1982,1985,1996)、青年期の孤独感の研究を発端に、全世代の孤独感について年代的な特徴を明らかにしています。落合によると孤独感は心理的条件と物理的条件から説明されるといいます(Table1)。
心理的条件はさらに人との関係の次元、自己のあり方に関する次元、時間的な展望に関する次元の3つにわかれます。物理的条件とは、人と別離する状態と物理的に一人でいる状態にわかれます。
心理的条件についてもう少し説明すると、人との関係の次元では、人と人はわかり合えないという考え方の孤独感とわかり合えるだろうと思うがしっくりこないなという孤独感と人の輪の中になじめないと感じる疎外感があります。自己のあり方の次元とは、自分と他人は別の存在だと気づいた上での孤独と気づかない上での孤独があることと自分の存在理由への疑問感からの孤独感です。時間的な展望は、Lewin(1951/1979)によれば「ある一定時点における個人の心理学的過去,および未来についての見解の総体」と定義されています。人間はその生涯発達過程の中で,それまで生きてきた自らの過去を振り返り,そしてまた,これからといったまだ見ぬ自らの未来について考えを巡らせています。青年期には未発達の能力なので、主に死が近い老年期の人が自分の生と死これまでとこれからを振り返って感じる孤独感といったところでしょうか。
孤独感はこれら9つの要素が絡み合って、それぞれの孤独感となるのです。孤独感はとても個人差の大きい感情なので、実証研究で整理できているのは理解をたすけてくれますね。
さらに、落合(1974)は、この孤独感を4類型に落とし込み、孤独感が発達的に成長していくのではないかということを明らかにしてくれています。AからDへと孤独感は成熟していきます(Figure1)。
A 自他の区別がついておらず、依存融合している状態で漠然とした孤独感のようなもの。人とわいわいやっている中で感じる孤独感やひとりでいるとき、なんとなくさみしい、一人でさみしいなという感じ。人といれば感じないですむという孤独感
B 人と人は理解しあえないと思い、さらに自他の区別がついていない状態。そのため、理想的な理解者を求め、とびつくが、裏切られたと感じ、孤独感が増していく。でもこの人がだめだっただけで、どこかに理解者がいるはず、、、、だけど、理解者がいないという感覚の強い孤独感。中学生ころの友人関係だったり、ソウルメイトを求める感じに近いかもしれません。
C 人と人は理解しあえず、人と自分は違う存在だと気づいている。いわば、人を信じてばかを見るくらいなら人と付き合わないと人間不信だったり、人はどうせ一人ぼっちなんだというニヒリスティックな感じや諦め感、絶対に人に心を開かないというような孤独感を感じやすい状態
D 人と人は理解しあうことができ、かつ人と自分は違う存在だと気づいている。人と人は違うからこそ本質的に孤独である。孤独感をひきうけた上で、理解しあうことにより人間関係と自己のあり方を肯定していくという孤独感です。そのためこのDの次元になると明るく爽やかで、充実感をともなった孤独を体験し、生きやすい状態であるといえます。
身近な孤独感ですが、調べていくと一言で「孤独とは」と言い切れない奥の深い言葉であり、感情です。ただ、欧米そして日本の孤独研究を眺めていくと、大雑把にいえば、孤独はあり方の側面であり、そのあり方をどう受け止めるかによって孤独感が生まれるということでしょうか。また、孤独は苦しく辛い感情だけでなく、明るく充実した感情でもあるということ。そこから、孤独を理解すると人間関係だけでなく、自分自身のあり方もしっかりとして、生きやすくなることに貢献する感情だとも考えられます。
次回コラムからは、孤独への対処法を書いていきますので、ご自身の孤独はどんな孤独なのか自己理解を進めておいてくださいね。
<自己理解のための宿題>
1) 「自分が一人だと感じるのは,……………………。」という文章を思いつくだけ書き出してみる。
2) 孤独の3つの側面1)親密な孤独、2)関係的な孤独、3)集団的な孤独もしくは、落合の孤独の4類型や孤独の要因(心理的・物理的)を参考にどんな孤独を感じているか書き出してみる。