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孤独のレッスン2 "孤独の悪循環":孤独感は、うつや自殺念慮、攻撃性、睡眠の質、食行動にも影響する?

宿題はやってみましたか?

あなたが感じている孤独感はどんな孤独感だったでしょう?


 前回は、孤独と孤独感という感情をわけることで、孤独感という感情はどんなものか?を学びました。そして、Homeworkで、あなたの孤独感はどんな感情なのか?見つめてもらいました。

 今日は孤独感の対処法に入っていくわけですが、具体的な対処法の前に、孤独感が問題となる時について学びましょう。どのような問題を解くときにも、どこが問題の箇所なのか?を明らかにしないと、どう問題点を解決にするのか?は見つかりません。手当たり次第に問題解決に挑むと、今度はその解決がさらなる問題を生むもしくは問題状態を維持するという悪循環に陥ります。少し単純にいうと、数学の問題を解く時に似ています。その問題は、目的地までの距離を問うているのか?移動速度を問うているのか?移動時間を問うているのか?明らかにしないまま、解答すれば解答するという目的は達成されたとしても、問題に正答するという点では不正解で、解決されません。そしてまた違う回答をすればまた不正解、そして自分は数学が苦手なんだ…,あの子に比べて自分はだめだな・学校いきたくない・勉強きらいetc.という新たな問題を生み出してしまいます。数学の問題ならばわかりやすいのですが、心の問題についてはわかりにくく、自分が解決の悪循環に陥っていることすらも気づきづらいという難点もあります。

 解決が問題を生んでしまうサイクルを避けるためにも、少しまわりくどいと思われますが孤独感が問題となる時について学び、あなたの孤独感への自己理解・自己洞察を深めていきましょう。

 孤独感は一時的なものは、たしかに感情的には苦痛ですが、わたしたちを「この苦しさは嫌だから人とのつながりを求めよう」という気にさせ、行動を促し結果、つながりを生むことになります。そのため一概に悪い感情とはいえず、私たちが人とのつながりを維持したり、新たなつながりをつくるために行動させるという適応的な感情です。記憶に新しいコロナ禍では、孤独を回避するためにオンラインでのつながりという新たな選択肢を増やしたり、これまで当たり前にあったつながりに改めて感謝したり、一方でつながりの質を吟味し、質の高い人間関係をさらに充実させたりと私たちは孤独をバネに進化していきました。つまり、孤独感は交流の動機づけや、つながりや帰属意識を高めるという役割を果たしていと言えるのです。一方で孤独が慢性化して、孤独感が持続的な状態となると、身体的にも精神的にも健康に悪影響を及ぼすだけでなく、社会的孤立という問題となります。(Cacioppo & Hawkley, 2009; McDade, Hawkley, & Cacioppo, 2006)。



孤独感の悪循環

 孤独の悪循環のモデルは次のようなモデルだと仮定されています。

 疎外され孤独であることに気づくき孤独感が生まれると、私たちは社会的脅威(例えば人から拒絶される・拒否される・怒りをむけられる・ばかにされる・恥をかくetc.)に対しての感受性をたかめ、過敏になります。すると、自分にとって否定的な情報に優先的に注意が向くようになります。すると自分の体験した出来事の中の否定的な面だけをより多く記憶するようになり、そのことでまたより一層、否定的な側面に注目するようになります。すると、悲しみや孤独の感情が悪化します。そのことはまたより社会的脅威に敏感になり…と過剰な警戒状態が続きます。さらには、どうせ社会は自分にとって脅威的であるという前提に基づいて、自ら否定的な状態に陥る行動をとりだし、孤立し孤独感は深まる(Masi, Chen, Hawkley, & Cacioppo, 2011)。

 孤独な人は、孤独でない人とくらべ、社会をより危険に満ちた場所だと認識しているのです。つまり、孤独の原因は他者にあり、自分ではどうすることもできないと、社会的につながるべき人から積極的に距離を置くといういわば自己成就予言的になるのです 。

 たとえば、様々な研究では、孤独でない人と比べて、孤独な人は社会的な出会いに、より大きな皮肉と対人不信を持って臨み(Brennan & Auslander, 1979; Jones, Freemon, & Goswick, 1981; Moore & Sermat, 1974)、他人と自分自身をより否定的に評価し、他人が自分を拒絶すると予想しやすいことがわかっています(Jones, 1982)。さらに、孤独な人は自己価値感が低く(Peplau, Miceli, & Morasch, 1982)、社会的失敗のために自分を責める傾向があり(Anderson, Horowitz, & French, 1983)、社会的状況においてより自意識過剰になり(Cheek & Busch, 1981)、拒絶される可能性を減少させるのではなく、増加させる行動をとる(Horowitz, 1983)といわれています。


 孤独のメカニズムをみると、孤独感を感じたときには警戒を強めるのは短期的には自己防衛という側面があるのですが、長期的に警戒し続けると、孤独感の悪化をうみだし、敵意、ストレス、悲観、不安、低い自尊心などの感情を伴い精神的な健康にも肉体的にも不健康な結果をもたらします。精神的な悪影響は、主なものとして抑うつ症状、自殺念慮や自殺行動が報告されています。身体的には、心臓血管系疾患や死亡率、睡眠の質などに影響することが分かっています。孤独感は他にも幅広く影響することがわかっていますが、あまりリストアップすると気が滅入ってくると思いますのでこれ以上はシークレットとしますね。


 他には、認知機能に負荷を与えるため、記憶力の低下や不健康な食べ物をより多く食べるようになったり(Baumeister, DeWall, Ciarocco, & Twenge, 2005)、他者に対して怒りが抑えられず攻撃的なる(Twenge, Baumeister, Tice, & Stucke, 2001)、などといった自己調節能力つまり実行機能の低下をもたらします。むかし さみしい女は太るみたいな言葉がありましたが、エビデンスがあるようです。おそるべし孤独感。

 さらに、孤独感は伝染するといわれます。孤独な人は他者に否定的な感情を伝えるだけでなく、他者から否定的な感情を引き出し、他者を通じて否定的な感情を伝えているのではないかといわれ(Hawkley, Preacher, & Cacioppo, 2007)、孤独でない人が孤独な人のそばにいると、時間とともに孤独感が増す傾向にあったり、孤独な人は孤独な他の人とつながる傾向にあるようです(Cacioppo, Fowler, & Christakis, 2009)。


 まだまだ、孤独・孤独感についての興味深い知見はありますが、このあたりにして、精神的健康・身体的健康に悪影響をおよぼし、WHOでは「孤独・孤立は差し迫った健康上の脅威」と定義される孤独感にどのように対処していけばいいのかという話に移りましょう。

 孤独の悪循環のメカニズムをみても、これまで行われてきた孤独への介入方法の検証をみても、単純に人とつながれば孤独は解消されるかというとそうでないことが明白となっています。実は、孤独の解消には関わる人の量ではなく、質が重要なのです。これらを踏まえ、孤独感に対処するには、現在大きく3つの方向性があります。


1 個人の内面に取り組む

・自己受容と自己慈悲(セルフコンパッション)・マインドフルネスの重要性と自分自身との良好な関係が孤独感との戦いにおいて重要

・趣味や興味を追求することの価値。個人的な興味が孤独感を軽減し、生活に意味と目的をもたらす方法など

2 人とつながる

・社会的スキルの向上と新しい人間関係(質の高い)の構築方法。

3 専門家を活用する

慢性的な孤独感により、様々な心理的な課題が複合的に現れている場合や個人で取り組んだものの、社会的なスキル、感情調整スキルがうまくいかない場合には専門家を活用する方法があります。エビデンスのある対処プログラムは、不適応的な社会的認知に介入する認知行動療法です(Masi et al., 2011, McWhirter, 1990a, review)。


次回は、個人の内面に取り組む方法についてです。


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