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自己肯定感があがる“あきらめ”とは

「精神的健康における適応的諦観の意義と機能(菅沼ら,2018)」から、日本人に向いているストレス対処法“よいあきらめ”についてご紹介します。

 あきらめという対処法は、負け・逃げなどネガティブなイメージで捉えられてきたと思います。たしかに、いわゆる諦めは、不安や抑うつを高め、自尊心やコントロール感を下げます。しかし、“適応的諦観”といって、ストレス対処法として効果的な、つまり“良い諦め”があることがわかってきました。


 適応的諦観は、広くはみなさんおなじみの、マインドフルネスというストレスコントロール法の一部なのです。マインドフルネスという言葉聞いたことはあるけれど、説明をうけたけれどよくわかっていないという方が多いと思います。

 もう一度整理しておくとマインドフルネスは、「今,この瞬間の体験に意図的に意識を向け,評 価をせずに,とらわれのない状態で,ただ観ること」(日本マインドフルネス学会,2017)という意味です。マインドフルネスストレス低減法を提唱しているカパットジンによると、次の7つを含む状態をさします。


①自分で評価をくださないこと

②忍耐づよいこと

③初心を忘れないこと

④自分を信じること

⑤むやみに努力しないこと

⑥受け入れること

⑦とらわれないこと



 このように、実はマインドフルネスでは、受け入れること、とらわれないことやそのままにしておくことをすすめており、これは「適応的あきらめ」に通ずるものなのです。

 さて、従来の「諦め」はストレスフルな状況を変えようとすることなく,それに従ったり受け入れる(Feifel & Strack, 1989)ことを意味します。

 菅沼ら(2018)によると、適応的諦めは、「自己や状況のネガティブな側面をそのまま受け入れつつも,そこにこだわらない前向きな態度」だとされています。

これは,必ずしも物事の現状をポジティブな枠組みで捉え直すことではなく,あくまでも現状のネガティブな面はネガティブなまま,あるがままに受け入れ,

「でもまあ,なんとかやっていけるだろう」

「自分にダメなところがあってもいいや」

「誰かに助けを求めたっていいじゃなか」

「失敗することもあるさ」

といった楽観的な諦観をもって思い悩まないというあきらめです。


 この適応的な諦めは特にもともと自尊心(自己肯定感)が低く人が行うと、ストレスへの対処に成功するだけでなく、結果的に自尊心(自己肯定感)があがる(上田,1996)という報告もあります。

 複数の研究によると、日本人はストレスに気づくことが苦手で、自分がストレスフルな状況にいることに気づくこと自体が精神的不健康につながるとも言われています。欧米のようにストレスに気づくことから、すぐに行動を変えたりするコーピングというストレス対処に進まないのです。

 このことから、日本人にとっては、自分のネガティブな反応に気づいた時に,どうそれを柔軟に捉えられるかが大切だということがわかります。

その意味で,適応的諦観という考え方を自分の中にもっておくと、ストレスに対処しやすくなる、言い換えればメンタルヘルスを維持しやすくなるのではないかということです。



 

主な引用文献


菅沼 慎一郎, 中野 美奈, 下山 晴彦(2018).精神的健康における適応的諦観の意義と機

   能, 心理学研究, 89(3), 229-239.

浅野 憲一(2009).わりきり志向尺度の作成および精神的健康,反応スタイルとの関係, パー

ソナリティ研究, 18 (2), 105-116.



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